相続などで得た先祖代々からの大切な土地。その土地活用で失敗している土地オーナーの事例を最近数多く見聞きします。税金対策と収益性の確保を両立させた土地活用を実現している人は、控えめに言って、あまり多くいらっしゃいません。
なぜ従来の土地活用事業者の提案による土地活用は、うまくいかないのでしょうか。弊社に来られるお客様のケースや、昨今の事情をもとに分析してみました。すると、いくつか理由が浮かび上がってきました。代表的なものを列挙してみます。
- そもそも土地活用に向いていない土地で、無理をしてアパート・マンションを建ててしまっている
- 相続税対策ありきで、収益性を無視した建築・運用プランである
- 土地活用事業者が言う30年一括借上家賃保証(サブリース)を信じてしまった
- 従来の土地活用事業者は、建築を請け負うことでしか利益を出せないビジネスモデルのため、オーナーに無理のある建築を促してしまう構造的問題がある
こうした背景もあり、土地オーナーの中には、土地活用をしたことによって、返済に苦しみ、貯蓄を切り崩さざるを得なかったり、挙句の果てには土地を失ったりしています。実際、光和不動産のもとにも、そうした物件を買い取ってほしいという相談が定期的にやってきます。
みなさんが土地活用をする目的は何でしょうか。
多くの方にとって最大の目的は、先祖代々引き継いできた土地を守り、親が築いた財産を子や孫にバトンタッチすることかと思います。そうであるならば、相続税対策と収益性の確保の両方を実現した方法を実践していくべきです。その具体的な方法や考え方、原則原理をお伝えすべく、連載形式で土地活用がうまくいかない理由から、おさえておきたい相続税のポイント、土地活用のノウハウや、事例を複数回に分けて解説していきます。
連載初回の今回は、なぜ土地オーナーの土地活用はうまくいかないのか、について詳しく解説します。
目次
増税により苦しむ土地オーナーたち
2015年1月1日、税制改正により相続税が増税となりました。
この増税の最大のポイントは、基礎控除額が下げられたことです。詳しくは今後の連載記事で説明いたしますが、従来は「5000万円+(1000万円×法定相続人の数)」だった基礎控除額が、「3000万円+(600万×法定相続人の数)」となりました。
これによって相続税の課税対象者が増えたのです。
実際、国税庁が発表した「平成30年分相続税の申告実績の概要」によると相続税が課税された人の割合は、2014年の約4.4%から2018年には約8.5%と倍増しています。ちなみに2015年は8.0%、2016年は8.1%、2017年は8.3%ですので、明らかに2015年の税制改正がターニングポイントになっていることがうかがえます。
納税額に影響のある税率についても増額となっています。相続税は所得税と同様に累進課税制度が採用されていますが、改正前には50%だった最高税率が、改正後には55%に引き上げられています。また、税率が細分化されたことで、増額の対象になるケースもあります。さらに2010年代に入って、相続税額にかかわる地価(相続税路線価)が、上昇してきています。特に松本市や長野市の中心エリアではその傾向が顕著です。
すなわち、相続税に頭を悩ませる方が、広い土地を持つ限られた大地主から、一般的な戸建て住宅を持つ方にまで対象が広がっているということです。大地主にしても新たに課税対象に入るようになった土地オーナーにしても、異口同音に仰っているのは、「相続税を支払うほどのお金はないが、土地は失いたくない。これからも守っていきたい。」ということです。
土地というのは、先祖代々受け継がれてきたものや、”一生に一度の買い物”である自宅として購入したものであることが大半です。ですから、「守りたい」のは当然です。そのような想いを持つ土地オーナーが、増税によって苦しんでいるのです。
賃貸住宅建築による相続税対策が増えた理由
土地活用の常識を作ってきたのは、土地活用事業者である大手ハウスメーカーやアパートビルダーです。2008年(平成20年)まで続いた人口増加や生活スタイルの変化に伴う核家族化によって、日本における賃貸住宅の需要は増えてきました。それに合わせる形で、先の事業者が「土地活用=建てる」という市場を作ってきたわけです。
その結果、多くの土地オーナーは、相続税対策に「建てるという方法以外ない」と考えるようになりました。別の言い方をすれば、建てることが目的となってしまっているのです。
確かに、アパートやマンションを建てることは相続税対策につながります。しかし、そこに収益性が伴っていないケースが大変多く散見されるのが現実です。
賃貸需要がないところに無理に建築したり、そもそも収益性を無視した賃貸住宅が量産されているのです。収益性が考慮されていない、もしくは軽視されてしまっている理由は、ほかでもなく相続税対策のみに着目しているからです。そういったアパートやマンションを建ててしまった土地オーナーあるいはその相続人は、将来の返済に苦しむことになります。
国交省が発表している「住宅着工統計」を見てみましょう。

出典:国土交通省 建築着工統計調査
上図にあるように、賃貸住宅着工数は、日本が人口減少社会に入る平成20年ごろまでは比較的安定していました。しかし、2009年(平成21年)から2014年(平成26年)にかけては低迷が続きます。景気の減速ということもあるでしょうが、賃貸需要に即した変化と捉えられます。すまわち2008年(平成20年)に日本が人口減少社会に入ったためです。
注目してほしいのは、2015年(平成27年)と2016年(平成28年)です。この時期に貸家住宅着工数が盛り返しを見せています。これは前述した相続税の増税が関連しています。
増税に苦しむ土地オーナーが増えていることをビジネスチャンスと捉え、大手ハウスメーカーやアパートビルダーが営業攻勢をかけたのです。
この営業攻勢における問題点は2つありました。
1つは必要以上にお金をかけた建物を建築するというプランであったこと。もう1つは賃貸需要が無い地域であるにもかかわらず、建てるという方法を提案したことです。
土地オーナーのみなさんは、なかなかこうした問題点に気付けません。なぜなら1日50軒以上の飛び込み営業をいとわない百戦錬磨の営業担当が、言葉巧みに「相続税対策になる」「不労収入が楽に手に入る」というセールスポイントを強調するからです。また、2015年に新たに相続税の課税対象者になった土地オーナーは、特に営業トークに免疫がありません。ですから、”建てる”ことで利益をあげている企業の言葉に踊らされ、賃貸市場の需要を無視した立派な賃貸住宅が各地で次々と建築されていったわけです。
近年明らかになってきた、不動産業界の歪み

日本は人口減少社会に入っています、ご承知の通り長野県は尚更です。
人口数の維持に必須だとされる出生率2.07に遠く及ばない1.8という目標を掲げる政府の数字からも分かるとおり、もはや国は、人口が増えることを目指しておらず、いかに減少率を抑えるかというフェーズに入っているのです。
こうした社会状況にもかかわらず、不動産業界や建築業界、それも先にあげたような大手ハウスメーカーやアパートビルダーは、ある一定の数を建築しなければ企業として立ち行かなくなるため、需要に関係なく賃貸物件を新たに作り続けています。正確には、土地オーナーや土地を持たない不動産投資家に対して、なりふり構わず土地にアパートやマンションを建てることを強く推奨し続けているのです。
その結果、昨今の報道で散見されるような不動産・建築業界の「歪み」が複数現れています。
1つは不良施工問題です。代表例が某アパートビルダーです。監督官庁である国土交通省からの指摘を受け、第三者委員会が全国にあるアパートを全棟調査した結果、なんと7割を超える建物で不備が見つかりました。上場もしているとあるハウスメーカーでも、近年、建築基準法に適合していない物件が数千規模で見つかり、大きな問題になりました。
「大手だから安心」と考えてアパートやマンションを建築した人も少なくないと思いますが、「大手ならリスクがなく安心」と言い切ることがいかに危険であるかを端的に表しています。
同じく、東証一部にも上場している比較的歴史の浅い建築会社も、顧客の融資を通しやすくするために、書類の改ざんを違法的に行っていたと指摘され、業務停止命令を受ける事態になりました。
さらに、投資用区分マンションを販売していたいくつかの不動産業者は「フラット35」という住宅金融支援機構による自宅向け住宅ローンを、不動産投資目的で不正利用していたとして、2019年に問題視されました。業者は「自己資金なしで投資が可能」と謳い、新築・中古ワンルームマンションなどを割高な価格で販売していたそうです。これは融資契約違反です。
このように、収益不動産に関連する不動産業界・建築業界の問題には、枚挙に暇がありませんが、その根底にあるのは、顧客利益を無視した営業攻勢とコンプライアンス軽視です。その歪みが、ここ数年で一気に露見してきているのです。
アパート・マンションは建てて終わりではない
アパート・マンションを建築さえしてしまえば、後は自然と家賃が入ってきて、滞りなく返済が済んでいく、と考えている土地オーナーの方々がたくさんいます。
ある意味では、それも仕方ない部分もあります。これまで見てきたように、土地オーナーに対して営業攻勢をかけてきた大手ハウスメーカーやアパートビルダーの営業担当者は、「建物さえ建てれば、後は何も考えなくてよい」と錯覚するようなセールスを行ってきたからです。土地オーナーのみなさんとしても、相続税対策という目先の目的があるため、この点を深く追求することなく建築プランを進めていったのです。
当然のことながら、アパート・マンションも建てたら終わりではありません。ざっと考えても「入居する人を探す」「不具合が出た設備を直す」「建物のメンテナンスをする」「退去者が出た部屋のクリーニングやリフォームを行う」「家賃を回収する」といったことが必要です。一般に、これらのことを賃貸管理と言います。
こうしたやるべき賃貸管理業務の一部、もしくは全てを別の誰かに依頼するのが、いまは主流となっていますが、”外部委託できること”と”何もしなくとも自然にお金が入ってくること”は、まったく別の話です。
つまり、あらゆるビジネスと同じように、賃貸経営にもリスクが存在するということです。残念ながら、賃貸経営のリスクをきちんと網羅的に理解しているという土地オーナーの方は多くありません。これから土地活用について検討している人、不動産投資に興味を持ち始めた人は、ぜひ知っておくべきです。
アパート・マンションを建てた後に考慮しなければならないリスク
代表的なリスクは、以下の通りです。
- 空室リスク
- 家賃下落リスク
- 修繕リスク
- 家賃滞納リスク
- 金利上昇リスク
- 災害リスク
- 事故リスク
- 訴訟リスク
これらのリスクの対応について、ここでは簡単に言葉の説明をしていきます。
「空室リスク」は、空室が出ることによって、賃料が入ってこなくなるリスクです。「家賃下落リスク」は、建物の経年劣化や周辺環境の変化によって、家賃が下落していくリスクです。「修繕リスク」は、入居者の入れ替え時などに発生する原状回復費と、建物全体のメンテナンスに関わる大規模修繕リスクです。
「家賃滞納リスク」は入居者が何らかの理由で家賃を滞納するリスクです。「金利上昇リスク」は、現金一括で建物を建築して賃貸経営を行う場合を除き、金融機関から融資を受ける場合に発生するリスクです。変動金利を選んだ場合には、金利が上昇して、毎月の返済額が増えるという可能性もあります。
「災害リスク」は地震、火災、台風、水害といった災害に遭うリスクです。直近ですと台風で長野市赤穂エリアは大変な被害を受けましたね。
そのほかにも、入居者が室内で死亡するという「事故リスク」も珍しくありませんし、建物の壁が剥がれ落ち、通行人に後遺症の残る怪我を負わせる、または賃借人の車に傷をつけてしまったという「訴訟リスク」もあります。
近い将来、危機に陥るオーナーが激増する可能性がある

その他、サブリース契約での問題も浮かび上がってきています。サブリースとは、マンションやアパートを不動産会社や建築会社が一括で借り上げ、貸主(転貸人)として第三者へ転貸する制度のことです。
サブリースを行う事業者は、先ほど書きました賃貸経営にかかる面倒な管理業務を請け負う代わりに、入居者から入ってくる賃料の80~90%をオーナーに支払うというのが一般的です。土地オーナーのみなさんからすれば、面倒なことをせずに毎月安定した賃料収入が保証されるということで、サブリース契約を選ぶ方が少なくありません。
しかし、サブリース契約には「賃料の見直し」という規定が入っています。ですから、多くの場合、2年ごとにサブリース事業者側から賃料の減額交渉ができるようになっています。(一定の期間賃料の見直しができないようになっている場合もあります。)
公益財団法人日本住宅総合センターの「民間賃貸住宅の供給実態調査」によれば、築10年以上経過したサブリースの物件オーナーは、実に7割以上が「借上賃料の減額」を経験しているとしています。
借上賃料の減額を経験していなくとも、修繕費や原状回復費用、そのほか付帯費用などで、サブリース事業者から高額な費用を請求されるということも珍しくありません。こうしたサブリースの問題は、大手の不動産業者・建築会社でもたびたび問題としてテレビや新聞などのメディアに取り上げられています。
すでに書いたとおり、2015年の相続税増税に際して、大手ハウスメーカーやアパートビルダーは一斉に土地オーナーに対して営業攻勢をかけました。このとき、多くの方がサブリース契約を結んでいるのです。
それから5年を経て、土地オーナーに対して”種明かし”を始める頃合いになってきました。
それは、たとえば月100万円での家賃保証をしていたオーナーに対して「家賃相場が下がってきたので、月80万円にしてください」と手のひらを返したように、交渉してくるのです。
当然、ほとんどのオーナーは記入期間から借り入れをしているので、支払いが難しくなっていきます。今後、築年数の経過とともに、さらなる借上賃料の減額が進めば、月々のローンが返済できない人が続出することが予想されます。その結果、「土地を手放さなければならなくなる」という事態に陥ってしまう方も増えるでしょう。実際、すでに光和不動産に寄せられる任意売却の相談も増加しています。「ローンが払えないので、土地と建物を手放したい」という相談です。
「土地を守るための相続税対策でアパート・マンションを建てたつもりが、結果的に土地を失ってしまった」という結末を迎える人が、現実問題として存在するということです。
まとめ
相続税対策としてアパート・マンションを建てると同時に、賃貸経営が始まります。賃貸経営を永続させ土地を守っていくためには、きちんと収益をあげていくこと、キャッシュフロー(家賃収入からあらゆる経費を差し引いた手元に残るお金)を出すことが欠かせません。平易な言葉で言えば、しっかりと儲けるという観点が重要なのです。
それにもかかわらず、ここまで書いてきたように、大手ハウスメーカーやアパートビルダーが「相続税対策なのだから、利益を出す必要はない」「儲けてはいけない」というセールスを行うケースが大変多いため、「収益性は重要ではない」と考えてしまう土地オーナーが後を絶ちません。
では、収益をあげていくには、どうしたらいいのでしょうか。賃貸経営を成功させるために必要なことは何でしょうか。
断言しますが、土地活用の成否は初期設定で9割が決まります。
土地オーナーは、ハウスメーカーやアパートビルダーによる古典的な営業を受けたり、親戚やご近所、あるいは地元で付き合いのある金融機関や組合から、「建てる」ということしか方法がないと思い込んでいるケースが少なくありません。
ぜひ、「相続税を支払いたくないが、土地も失いたくない、そして収益も得たい」という土地オーナーやそのご家族のみなさんは、この連載で土地活用の原則を学びながら、ご自身の土地に最適な活用方法や賃貸経営の方法を考えるようにしてください。
そうすれば、自分たちの大切な土地を守っていくことと、賃貸経営によって収益をあげることを両立させる道が見えてくるでしょう。そして、その道を進んだ先に、土地オーナーやそのご家族のみなさんの幸せが待っていると願ってやみません。
また、手前みそで恐縮ですが、光和不動産では、無料で土地オーナーさまのご相談を受け付けております。賃貸住宅以外の土地活用方法も非常に数多くあり、何が適切かは一概には言えず実際に土地を拝見させていただき、お話しを伺わないとなりません。ご相談は予約制となっておりますので、少しでも気になる方はどうぞお気軽にご連絡ください。